男の子が生きていきにくい社会だと思いませんか。

私がクリニックを開業した平成3年ごろには、クリニックに来るのは、若い女性や主婦の方が、クリニックを利用し始めたころでした。

男子たるもの、精神科クリニックになど行くべきではないという風潮でしたから若い男性の来院はかなり少ないでした。

若い女性の過食症や拒食症、強迫性障害の方など、今まで誰にも相談できないで苦しんでいた方たちがこぞって精神科の門をくぐりました。

 

ところがこの数年、若い男性ばかりがとても多くなっています。その多くは本来の精神的疾患ではなく、社会に適応できない、会社に適応できなくて悩む方です。とても軟弱で未熟さが目立ちます。

初診の方で多いのが、若い男性、それから認知症のお年より、それについで初老の女性です。若い女性の来院は昔に比べたら少なくなっているように感じます。

初老の女性が多いのは、これまた女性の寿命が長くなり、それまでの生き方の問題が噴出してくるせいです。初老の男性が少ないのは、男性は生き方で悩むほど頭がやわらかくないですからね。来られる時は、認知症になったときです。

生き方が多様化して生きていきやすくなったのは若い女性です。逆に男性は多様化したことで生きにくくなっているように感じます。

なぜなら多様化したせいで、どんな生き方でもいいとは言うものの、どう生きていったらいいかわからなくなるのですね。「男子たるもの、一家を養っていかなければならない」という男性性は当然求められます。一方、家事を手伝う人としてまたイクメンとしても期待されています。アイデンティティーが持ちにくいです。昔の男性よりはるかに立ち位置がむづかしいのです。

しかしその前に、家庭が母性化しているので、母親に取り込まれて軟弱に育ちます。未熟なまま社会に出ます。しかし家庭から一歩出ると、男性社会ですからきびしいですよね、外の世界は。楽な仕事なんてないですから。

一方、母性化した家庭の中でのびのびと育った女性は、そもそも家からも社会からも期待されていないので、肩にのしかかってくるものの重さが違います。

「期待されていない」というのは悲しいようですが、どっちにころんでもいいわけですから気持ちがラクなんです。のびのびしています。働いても良し。結婚しても良し。未婚でも良し。いいですよね、この自由さ。

 

男の人が生きていくのは大変な時代にもっともっとなっていくことでしょう。

 

男の子の子育てには、いくつかの注意点があります。

本来、女性は産む性なので逞しく、男性は見かけとは別にデリケートでナイーブな人が多いように思います。

 

男の子が逞しく育つために必要なちょっとしたコツを知っているのといないのでは、社会に出てからの生きやすさが違ってくるでしょう。

お母さんに去勢されたような軟弱な男の子が増えて、クリニックの門をくぐる男性が多いのは悲しいことです。

それはその前の、結婚する時の「ふたりの関係」から始まるのですが、結婚する前の男女の関係を育てる分野の仕事をする方がいてもいいと思うほどです。だって早いほどいいんです。安易に結婚したり、恋愛をしているようで、実は対等な尊敬や信頼の関係にない恋愛から結婚生活が始まると子育てにも影響が出ます。

精神科で定点観測をしていると、10年単位くらいで、時代の変化を感じます。精神科は、もっとも社会の裏面、ホンネの部分が見える場所。

そんな場所にドンと座って、ゆっくり患者さんの声に耳を傾けている時が一番こころが落ちつきます。

私もまた、患者さんになれる素質を持っているからでしょうか。

しかし「医療」とか「疾患」というより、社会的、心理的側面で病む患者さんが、医療費を使って診療を受ける今の体制はよくないと思います。社会が悪いという前に親たち、大人たちが学び、変わっていかなければいけない面があると思っています。