私の弱みについて

 

私の血液検査で特別の異常のない中、アルブミン値だけが低めであるという欠点があります。

アルブミン値は「老化の指標」と言われており、免疫力が落ちて、感染症などにかかりやすくなります。

老化に従って低くなりますが、だいたいごく平凡な食事をしていても、低くなることはあまりありません。70才以上のひとり暮らしの人の10人にひとりくらいと言われています。

従って、人間ドッグを受けても、それが低いと指摘されることは、ほぼないと思います。

それが私は若いころからこれがとても低いのです。

食事は家族もいますし、食事に対する意識はかなり高いほうです。また低いことがわかっているので、その上にふだんから プロテインを飲んでいます。ビタミンやミネラルなども入ったダイエット用のものを利用しているのです。

しかしそれを摂取し、食事もほぼ普通に摂っているにも拘わらず、今日の検査でかなり低い値が出ました。

ちょっとショックでした。

どうしたらアルブミン値が上がるかというと、運動をした後にプロテインをとると、上ります。

しかし私のように、机に座る仕事で運動もあまりしない人に「運動後に摂りなさい」と言われても無理です。

患者さん用の栄養剤をたくさん販売している「明治」や、プロテインサプリを販売している会社の栄養士さん。当院の管理栄養士さん、それぞれに聞いたのですが。

私のアルブミン値を上げる方法を知らないか、またはそれぞれに違う意見を言います。

よくわかっていない分野なのですね。

とりあえず、明日から「食べたもの」「プロテインの摂取時間、体重」などを書いてね、と当院の栄養士さんに言われたので、やってみるつもりです。

血液検査は、よく見ると、その人の弱みが見えてきます。

私の弱みは、不整脈と低アルブミン血症です。

不整脈のほうは「緊張状態の持続だね」と知人の精神科医に言われ、これは即、自分でも素直に納得した次第です。

私は若いころから胃弱だったり、肩こりだったり、疲れやすかったり、なかなか弱みの多い人間ですが、健康に関する関心が高いので、ハードな仕事を持ちながらも、今のところはしぶとくがんばっております。

でも今はちょっとアブナイなあと思っています。

連載コラム(12)意欲こそ、若々しさのもうひとつのポイント

若々しい脳とは何かのキーワードは「⼼のしなやかさ」であると前回書きました。今回は、もう⼀つのキーワードである「意欲」について書いてみたいと思います。

「やる気のなさ」は認知症の始まりの指標として、「もの忘れ」の症状と同じくらい重要です。

ここで脳の仕組みについて簡単に触れたいと思います。

脳は3頭⽴ての⾺⾞に例えると分かりやすいです。

1頭⽬は感性や感覚をつかさどる右脳。

2頭⽬は運動をつかさどる脳。

3頭⽬は論理的な思考をつかさどる左脳。

3頭の⾺が⼒を合わせて私たちの⼼や体を⽀えてくれています。

ここで強調したいのは、⾺以外にも⽋かせないものがあるということです。それは⾺を操る御者の存在です。

⾺がいくら達者でも、御者がさぼっていたら、これ幸いとばかりに⾺も怠けてしまうという具合です。

「意欲ややる気」に関係する場所は主に前頭葉です。御者の働きが悪くなると、今までできたことが何かとおっくうになります。おっくうになってやらなくなるから、ますます脳の機能も衰えるという悪循環です。

以前、1⼈暮らしを⻑く続けた88歳の⼥性が肺炎で⼊院してきたことがあります。気丈夫な⽅で、⼊院するまでは料理や家事をこなし、1⼈暮らしをしていました。ところが、⼊院して脳の検査をしたところ、脳の萎縮は重度だったのです。これだけ脳が退化していても、料理や家事ができることに本当に驚いたものです。

彼⼥には家族や親類が近くにいませんでした。彼⼥を⽀えていたものは「誰も助けてくれる⼈がいない。最期まで⾃分でやっていくしかない」という覚悟と意欲であったろうと想像できます。そして、⼊院して頑張る必要がなくなってからの衰えは、残念ながらあっという間でした。あれだけの家事をこなしていた婦人がたったの一週間で、自分がどこにいるかもわからなくなったのです。

器質的な脳の異常が⼤きくても、⼈⽣にやる気や⽬的があると、⼤きく萎縮した脳がこんなにも働くのだという事実は時に奇跡的でさえあります。少ない脳細胞でも助け合って必死で機能すれば、⼤きな⼒が出るのですね。

⼈⽣に何か⾜りないものがある、というのは必要なことです。また同情すべき状況にある、というのも悪いことばかりではありません。その中に、⼈の⼼を震い⽴たせる何かがあるような気がします。

今嘆いている苦労や重責こそ、若さの秘訣だと考えを変えてみる視点もあるのではないでしょうか。

恵まれて幸せなのは結構なこと。しかし、お⾦があって家族がいて、何もかもやってもらって、⾃分の役割やすべきことまでなくなってしまうと、脳はあっという間に退化します。

どうやら幸せボケは新婚さんだけの専売特許ではないようです。

連載コラム(11)若さのキーワード、それは心のしなやかさ

年を重ねても若々しくいられる秘訣(ひけつ)って何だと思いますか。

そのキーワードの⼀つは「⼼のしなやかさや頭の柔軟さ」です。(身体も同じかもしれませんね)

もう⼀つは「意欲や好奇⼼」を挙げたいと思います。

今回は「しなやかさ」のほうを取り上げてみたいと思います。

心のしなやかさってどうやってそれを鍛えることができるでしょうか。患者さんが⼼を病むときを考えてみました。

それは、環境や対⼈関係が変わったり、傷ついたり、何らかの変化があったときにあらわれます。つまり変化に対応できないとき、⼈の⼼は折れたり病んだりするでしょう?

それを裏返すと、トラブルや悩みのときこそ、脳に刺激を与え、⾃分を変える絶好のチャンスと⾔えるるでしょう。

⾄近な例を挙げてみます。

わが家で新しく買い替えたピアノのことで夫婦の意⾒が異なったことがあります。

ピアノは夫婦共通の趣味です。その扱いで夫がAだと主張し、私は内⼼Bだと思い、考えが真っ向から対⽴したのでした。

私はけんかが嫌で対⽴をあらわにすることを避け、だんまり戦術に⼊りました。しかし、お⾦の⼯⾯で苦労したことを思えば、どうしても⼼が晴れないのです。

そこで、86歳になる昔のピアノの先⽣に電話で相談することにしました。

彼⼥は「難しい問題ね。ご主⼈には彼なりの確固たるお考えがあるのでしょう。あなたの考えも、今は聞いていただけないと思うよ。それを⾔い募って争えば、たった2⼈の夫婦暮らしが不愉快なものになるでしょう。ピアノの扱い⽅の問題は、あなたにとって⼈⽣の⼀⼤事なの︖ でなかったらここはひとつ、気持ちを切り替えて忘れるのもあり。それが嫌なら、どちらが正しいかはさておき、あなたが今できることをやることね」と明快に⾔われました。

それは、私なりのやり⽅で弾いてあげれば、ピアノは響くという⽅法でした。

私は⼿に⼊れた時の苦労やどちらが正しいかばかりにこだわり、それしか⾒ずに悩みました。

でも冷静に考えれば、私のやれることは他にまだあったのです。

⼼がすっきりし、考えの違いは棚上げにしたままですのに、不思議とピアノを弾く時間が⼤切に思えるようになったのです。

⽼婦⼈の想像⼒、経験に基づいた多⾯的な視点、押すだけでも引くだけでもない柔軟な対応。私はそのアドバイスに救われ、だんまり戦術でかたくなになっていた⼼が柔らかくなり、前向きになれました。乗り越えたのだと思えました。

うっとうしい夫婦げんかや職場のいざこざ、そして⼼の病気を得ることなどは、視点を変え、脳に刺激を与えるチャンス到来なのだと思っています。

そして⽼いて⾝体は衰えても、⽼婦⼈のように、周りの⼈に的確なアドバイスを与えることのできる若々しい⼈であり得るという事実。それは、誰にとっても希望であり⽬標でもあると思います。