連載コラム(38)愚痴りたいとき思うこと

<38>愚痴りたいとき、思うこと

愚痴はおおむね⼥性の専売特許だ。もちろん男性にも愚痴りたいことは⼭のようにあるだろう。愚痴を⾔えば気持ちがすっきりする、すっきりした後はやる気も出るというもの。ところが、愚痴は聞く側にとってあまり⼼地よいものではない。なのでつい早くアドバイスをして愚痴を⽌めたい衝動にかられる。

でも⽌めようとすればするほど、逆効果になるだろう。相⼿は「⾃分の気持ちを分かってもらえていない」と悲愴感を漂わせ、さらに声⾼く愚痴を述べ⽴ててくるからだ。じゃあ、どうしたらいいの︖ という気持ちになるが、この愚痴のループを⽌める、とっておきの⽅法を提案したい。

例えば⼥性が夫の愚痴を⾔っている場合。積年の恨みつらみがあるだけに迫⼒もあって、中途半端なアドバイスでは通⽤しない。そこで私は「でも、そんな夫を選んだのはあなたでしょう︖」とやんわり問いかける。相⼿は「だけど、その時には気づかなかったんだから仕⽅ないでしょ」。私は「なるほどね。でもちょっと考えてみて。その時、あなたのご主⼈より男前で、⾼給取りで、頭が良くて気がきいて、ステキな男性が近くにいたと仮定しましょう。果たしてその男性は、あなたを選んだかしら」。すると、さすがに⼥性は黙る。黙らされるといったほうが正確だろうか。

これはどんなことにも当てはまる。職場の愚痴しかり、友達の愚痴しかり。先⽇も、職場のもめ事からうつ病を発症して1年ぶりに復職した男性がいた。「なんとかやっています。

しかし、職場は相変わらずレベルの低い問題でゴタゴタしていて嫌になります」と⾔うので、例の持論をぶった。「あなたは地元から出たがらず、⼀番⼿っとり早い就職先を選んだんだよね。もし、勉学に励み苦労の揚げ句、すばらしい会社にたどり着いていたなら、今の状況は起きてなかったかも」と。その時は黙って帰った男性だが、1カ⽉後の診察で「先⽣のあの⾔葉は衝撃でした。⽬からウロコです。職場に対する思いが変わり、⼈⽣まで考えてしまいました」と⾔ってくれた。

ここがポイント!

愚痴や悪⼝を⾔うとき、⼈は「⾃分だけは別」という前堤で話している。でも本当は「別」じゃない。類が友を呼んでいるだけだ。それが分かれば、愚痴を⾔いそうになったとき、⼝を押さえたくもなる。愚痴は⾔っていい。おおいに。だけど、あなただけ「別」でないことを知った上で。この私だからこそ、この夫がいる。この私だからこそ、この会社に居る。この私だからこそ、今の状況を招いている…。そう思うと少なくとも私は、今居る場所を⾼められる⾃分でありたいと思うのだ。