連載コラム(54)気分が落ち込んだ時に考えること

 

健康な人でも、時には落ちこむ。重苦しい気分になったり、憂うつになることは誰にでも起きる。そんな時に役立つ話をしてみたい。

大事なことは「その気分にはかならず原因がある」ということだ。その中で多いのが人間関係である。

自分以外の他者ほど自分を脅かす存在はないように思う。なかでも最強の相手は家族だろうか。その誰かとうまくいかなかったり、心配事が絶えないなら落ち込むのも当然だろう。

そんな時、あまり責任を感じ過ぎず、少しその家族から距離を置くことも必要だ。

逆に失って初めて、ということのないように、その家族がいかに自分にとって大切な存在であるかを知るきっかけにすると良い。

次いで多いのが、家族以外の人間関係である。誰しも「苦手な相手」や「苦手な状況」というのはあるものだが気がついていないことも多い。

 

A子さんは長く通院している私の患者さん。落ち込みやすい彼女と、原因を一緒に考えてみた。

彼女はパソコンやスマホが大好きだ。リアルな人間関係より、インターネットの中の人間関係のほうが煩わしくなくていいと言う。家にいることが好きで人見知りな性格の彼女にとって、インターネットの世界はのびのびと自分を解放できる場所らしい。しかしそこに落とし穴があることに案外気づいていなかった。

友達とラインでやり取りをしていると相手の反応が気がかりになる。返事が滞りがちになると、何か悪いことを言っただろうか。何か気を悪くさせただろうか。考えれば考えるほど気持ちが重くなり、落ち込むのだと言う。

関係を悪くしたくない。大切な人だと言う。

私は「じゃあ、こんな仮定はどう? その人を失ったらどれくらい困る?」彼女は考える。

「悲しいけど私の人生が変わるほどじゃない」

「じゃあ、しばらく切ってみる?」と提案した。

距離を置いたり、関係をいったん切ってみて困る相手など、そうそういないものだ。

彼女はパソコンやスマホをいったん手離すことに決めた。その世界にのめりこんでおり自分の気持ちがふりまわされていると気づいたのだ。落ち込みには必ず原因がある。

決してあなたが悪いわけじゃない。

落ち込んではじめて、自分の弱み、自分の苦手な状況に気づいたりする。逆に裏に隠されていた自分の願望に気づいた方もいる。そんなことに気づくいい機会である。

時には距離を置き、必要のないものを手放していこう。そうやって自分を幸せな気分にしてくれるものや関係だけが残っていくといいね。

私自身も落ち込みの原因を探ることを積み重ねる中で、自分が自然な形でしあわせなものに囲まれていく気がしている。