連載コラム(2)愚痴上手な人のマナーとは?

先回、会話はキャッチボールのようなものです。ですからまずボールをしっかり受け⽌めることが⼤事ですと書きましたね。

今回は逆の⽴場から書いてみました。

毎⽇、診察室で多くの患者さんの話を聞くのが私の仕事です。「この1カ⽉はどんな調⼦でした︖」とまず話を振るのは私のほうからです。

患者さんが話す内容はさまざまですけれど、好転しやすい⼈としにくい⼈があるんですよ。治りやすい人と治りにくい人と言いかえてもいいかもしれません。

だったら「治りやすい人」「成長しやすい人」に入りたいと誰もが思うのではないでしょうか。

どんな違いがあるか考えてみましょう。

今⽇いらした50歳の男性は、職場や仕事の中で葛藤を抱えておられ、いまひとつ体調不良が好転しなくて悩んでおられる方です。

「どうですか︖」とまずお聞きしてみました。

「やっぱり、もやもやします。⼈間関係って難しいです。いろんな本も読んでみるんですが、ピンとくるものもないし」とおっしゃいます。

「どんな時に︖」と話を向けても、私の問いかけなどなかったかのようにスル―して、いかにご自分の体調不良がつらいか、気分がすっきりしないかについて、えんえんと話されるのでした。こんな具合ですと、一方的な愚痴だけで、診察の持ち時間はあっという間に終わってしまいます。

ああ、もったいない。

次に来た患者さんは38歳の⼥性でした。

「ぐっすり眠れないんです。質の良い睡眠が欲しいんです」とおっしゃいました。続いて彼⼥は「仕事を3⼈で組んでいるんですけど、私以外の若い2⼈が仲がいいんです。こないだ、私の仕事が遅いので残業していたら、2⼈して攻撃してきたっていうか、あなたの要領が悪いから⾃分たちまで帰れないって、いじわるな⾔い⽅で」などと、彼⼥の話はとても具体的で、職場の状況を想像できる話し方です。

私自身も共感もできましたし、こうなると断然アドバイスもしやすいですよね。

では一体、具体的に語れるとはどういうことでしょう。

実は、ここがポイント!

やはり、普段からまわりを客観的に⾒て⾃分の置かれている状況を知ろうとしたり、⾃分の⼼の動きに注意を払ったりしていないとできないことなんです。

むずかしい言葉で言うと「自我を働かせる」とか「もうひとりの自分が、今の自分を俯瞰する」とでもいいましょうか。

⼈は⼈間関係の中でいろんなストレスを受けています。いくら⾃分がおとなしくしていても、問題があちらの方から勝⼿にやってくると言っても過言ではないでしょう。そして悩まされるのです。

そんな時、誰かに話を聞いてもらうと本当にすっきりします。

しかし、その話し⽅にはやはり⼯夫が必要だと思います。

例えば「ちょっと愚痴を聞いてほしいんだけど、いい︖ 聞いてもらえるだけですっきりすると思うの」と断ってから話すだけで、相手にも心の準備が出来ますし、「聴いてあげたいな」と思うでしょう。

また、愚痴と相談事は違うので「迷っているの。ちょっとあなたの意⾒を聞きたくて」と最初に⾔うと分かりやすいですよね。そしてあくまでも、愚痴も悩みも、相⼿が想像しやすいように具体的に手短に。また相⼿や周囲の悪⼝だけにとどまるより、⾃分のことではあっても、その⾃分を「もうひとりの⾃分」が⾒ているように話すと、聞く⼈の気分を重くしないですみます。またそのほうが、はるかにより効果的なんです。

愚痴上⼿になって今⽇のもやもやを明⽇に残さず、すっきりした気分で夜を、朝を迎えたいものですね。