連載コラム(29)情報満載・家族の顔

 

皆さんは、毎⽇、夫や妻や⼦どもたちの顔をどれくらい⾒ているでしょうか。

⼀緒に暮らしていても、あらためて家族の顔をしっかりと⾒ることはあまりないのではないかと思われます。

先⽇、ある⻘年がうつ症状を訴えて外来を訪れました。

ともに店を経営していた⽗親が脳梗塞で倒れ、店を⼀⼿に引き受けることになったのです。看病しながら頑張っていましたが、1年たったある⽇、気がついたらうつ病になっていたといいます。

⻘年は礼儀正しく、訴えも控え⽬で、⼀⾒して重症には⾒えないのでした。

しかし、ここがうつ病の診断の難しいところなのです。

この青年と反対に、憂鬱感が強いとか⾷欲がない、やる気が起きないなど、うつ病と似た症状があっても実はうつ病とは限りません。

その違いは何でしょうか。

うつ病を⼀⾔で表すと、エネルギーの枯渇状態です。

貯⾦を使い果たすと何も買えないように、エネルギーを使い果たすと、何もできなくなります。

「うつ病」と「単なる落ち込みや憂鬱な気分」との違いはエネルギーの量だということができます。

たまに、いかに⾃分が⾟いかについて滔々と述べる患者さんがおられます。

うつ病の⽅が、こんなにエネルギッシュにしゃべれるだろうか。本当にエネルギーを使い果たしていれば、話すのも訴えるのもしんどく⼤儀になるはずだ、などいろいろ考えながら診断のためのお話しをお聞きしていきます。

エネルギーが枯渇すると、⼈はしおれた花みたいになるように思います。

つまり話すのもおっくう、⼈と会いたくない、⾷べるのも⾯倒、顔から⽣気が失われる、夜も熟睡できない、などなど。

そしてそのすべての変化は、案外しっかりと顔に出るのです。

顔は正直に、その方の内面をあらわします。

だから私は、診察室で「聴診器」の代わりに「私の⽬」を使うのです。

とにかくまず患者さんの顔を⾒ます。

症状が良くなっても悪くなっても表情ひとつでだいたいのところが分かるのですから不思議でしょう?

患者さんの中には「先⽣がパソコンばかり⾒て、⾃分の顔を⾒てくれない」という理由で病院を変わってくる⽅も少なくありまん。みんなしっかり⾃分を⾒てほしいのですね。

専⾨家は毎⽇たくさんの顔を⾒ないといけませんが、皆さんなら家族だけ。

家族の数なら知れています。

ここがポイント!

毎⽇⼦どもたちをがみがみと追いたてる前に、わが⼦の顔が⽣き⽣きとしているかを⾒ることにしませんか。

忙しさにかまけて相棒の顔などじっくり⾒たことがないという⽅も、朝起きた時の顔を「定点観測」していれば、いずれその⽇の調⼦や気分が分かるようになるはずです。

毎⽇同じようでも、家族の顔や表情にはさまざまな情報が書き込まれています。

ここもポイント!!

 

⽇々⾒続けることではじめて、その⼈の変化というものが分かるようになります。

 

その変化や違いをキャッチすることが⼤切なのです。

薬や病院に頼る前に、ぜひ「あなたの⽬」を使ってみてはどうだろうかと提案したいと思います。