連載コラム(47)心のブレーキのはずし方

 

 

 

<47>⼼のブレーキの外し⽅

前回、うつ病がなかなか治らないケースでは、⼼にエネルギーが補給されても、⼀⽅で「不安や思い込みなどのブレーキがかかっている」場合もあると書いた。今回はこの「⼼のブレーキ」について考えてみよう。

うつ病を発症し、休職した中年の男性がいた。症状が改善して復職したが、間もなく再発して⼊院した。しかし⼊院⽣活を⾒ていると割合おしゃべりで⾏動⼒もそれなりにある。エネルギーの枯渇というより、むしろブレーキがかかっていると判断した。

彼のキーワードは「焦り」であった。6⼈家族の⼤⿊柱であるというプレッシャーが⼤きくのしかかっていた彼は、⾝体が休んでいても⼼が休んでいないのだ。せっかく貯まったエネルギーを「焦りという気持ち」に使ってしまうため、⼒を貯め込むまでに⾄らない。さらに彼の場合、「⾃分はうつ病だから何をやってもダメだ」という思い込みがいっそうブレーキをかけていた。

「思い込み」がエネルギーの流れを⽌めている。それらブレーキの仕業でエネルギーが効率良く使えていない。⼼の病気が⻑引いている患者さんによく⾒られることだ。実は患者さんに限らず、⼼のブレーキは多かれ少なかれ誰にでもかかっている。「できないという思い込み」や「焦り」「こだわり」などだ。

問題は、誰もがそのことに気づきにくいこと。毎⽇、知らず知らずのうちに⾃分で⾃分にかけている「魔法の⾔葉」。そして、そもそも⾃分では気づかないものを、⾃分で外すことは困難だ。

ではどうするか。⼈間には「⾃分が⾒たことのない景⾊は⾒えない」という特徴がある。

私⾃⾝を例に挙げれば、院⻑になる前には「院⻑なんか無理︕」と信じていた。連載をやる前は「連載なんて絶対できない︕」と⾔い張った。でもうまくやれているかどうかは別として、やったらやったで、少なくともやる前とは別の景⾊を⾒ている。

そう。⼈間は体験することで、⽴場が変わることで別の景⾊を⾒、別の思いを経験し、その結果、今までできないと「呪⽂」をかけていたことがやれていたりする。私だけ特別だろうか。いや、そんなことはない。実は誰にでも平等に変化の機会は訪れている。「機会」だと気づいていないだけだ。

そんな時、後ずさりしないで⼀歩前に進んでみよう。⾃分では気づけないからこそ、素直に⼈の忠告を受け⼊れながら、または訪れた機会を逃さず、⼈は変化することで違う景⾊を⾒ることができる。⼈の忠告を受け⼊れること、機会を⽣かし⼀歩踏み出してみること。それが⼼のブレーキが外れるきっかけとなり、成⻑へと⾃分を運んでくれる気がする。