こころの病と向き合うために・9 雑感

35年まえの同僚精神科医から、ある論文が送られてきました。

この医師は、みずからの長いうつ病とつきあいながら、精神科医を休むことなく続けている蟻塚亮二医師と

いいます。精神病院開放化で共に戦ってきた仲間です。

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論文の名前は「うつ病のリハビリテーション」です。その中味を要約します。

うつ病というのは、一時的な病でなく、慢性の障害である。だからうつ病からの回復に何が必要かというと、

いささかでも環境や心の構えを変えること。つまり「自己を修正する体験」なくして、薬だけにたよったり

医師に下駄を預けたままでは、この病気は治らない。病気になる前と同じ自分、同じ環境、同じ対人関係、

同じ社会的立場を保存したまま治ることは難しい。環境を変えたり(環境のほうに変わってもらうのでは

ないですよ。環境を変えるというと、環境のほうで変わってもらわないと、理解してもらわないと、と たいてい

の人がいいますがそうじゃないんです。相手は変わりませんからね。これ 私の注です)

そして、「何かしらのふんぎり」「健康的な開きなおり」「人生や対人関係に目からウロコが落ちる体験」など

「以前とは一味違う自分」を発見しなければ、この病気は治らないのではないか。

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わたしがこのエッセイの中で、一番言いたいこと、これから書いたいきたいと思っていたことを はからずも

書いていましたので、紹介しました。

この医師は2歳年下で、決して上司とか先輩ではなかったのに、とても優しい方でした。

今でも思い出すことがいっぱいあります。

医局会といって週に一回、夜おそくまで会議があるのですが、子供たちのことが気になりつつ 下っ端としては

帰ることができません。すると、かならず9時ころになると言ってくださったのです。「〇〇先生、先生はそろそろ

帰ったらいいよ」 その一言で、わたしだけ腰をあげることが出来たのです。

また、医局員7名のうち、一名だけ外国旅行に視察旅行に行けることになったのです。わたしは下っ端ですし、

女性ですし、白羽の矢が当たるわけはありません。彼が行くことになりました、が 彼が言いました。

「僕たちは男性だから、また機会があると思う。でも あなたは女性だから 家事や子育てでなかなか自分から

行けるということはないだろう。この機会にぜひ、あなたが行ってくればいい」 そう言ってくれました。

30数年前の保守的な医師社会で、そんなことを言える先生と共に働けたということが、私の一番のしあわせ

、医師としての原点を作ってくれた病院でした。

私は飛行機がこわかったし、もし何かあったら、子供たちが・・・・と思って 勇気が出なくて行きませんでした。

 その先生は、おみやげに、私の4才の子供にロシアの可愛い帽子をおみやげに買ってきてくださいました。

 また統合失調症の男性がひとり暮らしするにあたって、カンタン料理を研究しては、教えていました。

お金と住まい、あとは料理ができなかったら退院しても暮らしていけない。

わたしはいつも「優しいなあ」と感心して見ていましたし、おおいに影響されたと思います。

意気投合しては共に仕事した、大切な仕事仲間でした。

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さて、今日は 睡眠について書くつもりでしたが、ダウンして一日寝こんでいました。

私は仕事はどうにかがんばってやっていますが、カラダはとても弱いです。その弱さをいつも気に

かけながら暮らしています。

遠出はぜったいしませんし、夜も10時半には休みます。夜の外出はいっさいしないし、とても自分を

いたわりながら暮らしていかないと、とにかく仕事にさしつかえてしまいます。仕事、命なんですから。

先日は ローストビーフの食べすぎだったのでしたが、今回はどうも、枝豆やとうもろこしや トマトを 人に

いただくまま あまりにも美味しくて食べすぎたのが原因だと自分では思うのです。

とにかく何が原因かわからないけど、休日の 3割くらいは寝込んでいます。仕事を休むことは一度もない

わたしですが、日ごろのケアは かなり気を使い、休息を大事にしています。

今は夜の9時半ですが、これ以上パソコンに向かうことも控えています。明日の疲れに影響するから。

これって 半分 ビョーキ?

そんな自分がとても嫌でした。

しかし、今日ダウンしていた日に 蟻塚医師の論文が届き、なんか 目からウロコが落ちました。

蟻塚医師の弱みは「うつ病」です。

でも私の弱みは、この 「弱い体」「弱い神経」じゃないかとふと気づいたのです。

頑健な方とくらべて いつも「なぜ? なぜ? どうして そんなに違うの?」そればかりでした。

でも、タフじゃないのが わたしなんです。どこか 神経も タフじゃないと思う。

本当にこまかいことを気にかけてしまったり、相手のことを考えすぎて 自分の神経を痛めてしまう

ことがよくある。自律神経も不安定で 心臓と目に病気があります。

でも、その弱みを 本当には受け入れていなかったのではないか。 今日、そのことにあらためて

気づいたのでした。

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医師は病気して初めて一人前だと言います。健康なだけの医師には偉そうなことを言う資格がありません。

わからないのですから。

わたしだって、こころの病を治療中の人の 本当の気持ちはきっとわかっていないのだろうな。

偉そうなばかりいつも言って、ごめんね。一生勉強だもの。

蟻塚医師も、うつ病をしたからわかったことがあるのでしょう。

わたしは、普通には健康体ですが、たいていの医師や看護師の持っているタフさがありません。

でも 弱いからこそ、弱い人の気持ちがわかり「自分を大切にしよう」という こういうエッセイが書けると思います。

人には書いているくせに、自分だけはもっと 強くありたいと思っていた 今までのわたし。

今日はつくづくそのことに気づきました。

すぐダウンする弱い私を 人と比べちゃいけない。自分が自分をかわいがってやらなくてはと思った今日の日でした。

原稿は、はかどりませんでしたが 私にとっては 忘れることのできない有意義な一日でした。