こころの病と向きあうために・10 朝の気分

このブログの最初のほうに書きました。

「こころの疲れの測り方」という題名でしたが、朝起きた瞬間の気分を大切にして観測しようと

いうものです。

うつ病を疑うような食欲不振や睡眠障害、また「やる気のなさ」や「憂鬱気分」を訴える患者さんが

いたとします。これだけそろえば 完璧な「うつ病」です、普通は。

でも念のために聞いてみます。

朝起きた瞬間。つまりまだ自分がどこにいるかもわからないくらい 半分もうろうとしているくらい目覚めた瞬間の

気分はいかがですか?

「それはいいんです。でも そのあと ああ またいやな一日だとか 会社かぁとか思ってしまう」とおっしゃる。

そんなときには 純粋なうつ状態ではないのではないか と疑ってかかります。

いろんなことを考える前の、純粋な朝起きた瞬間の気分を見ることがコツなんです。

うつ病の方は たいてい 朝起きた瞬間から 嫌~な気分に襲われて目覚めたくなかったとおっしゃいます。

でも、こんなこともあります。

もう5年も前になります、早いですね。母が突然亡くなりました。

お母さんっ子だった私は、その後 半年くらい 朝起きた瞬間がとても嫌な 憂鬱な気分で 起きることができません

でした。ひょっとして うつ病? 疑いました。

でもね、夜になると ちゃんと寝れたんです。

だから うつ病にはなっていないと判断しました。

うつ病のときは 睡眠障害、食欲もあまりない。生気がない。そして 朝起きた瞬間、とても嫌な気分に襲われる。

そんな症状を総合して判断します。

 それでもまだ うつ病の診断って 確定的ではありません。 精神症状って すべて自己申告ですからね。

自分で そう思いこんだら 症状なんて そろってしまうこともあります。

うつ病は エネルギーが 最低に低下した状態ですから 訴える力もない、というのが 真実です。

ですから、いかに辛いかについて とうとうと述べる方の場合は やっぱり うつ病ではないのではないかと疑います。

それくらい うつ病の診断って むつかしいのです。

チェック シートで カンタンに自分で出来る、というほどカンタンではありません。

先日、67歳くらいの方が ひざの治療で整形外科にかかり、ねむれないというので 精神科にまわされました。

重症の睡眠障害が半年も続いている、何かと悲観的である、それ以外は 会話も少なく 訴えることも少ない

おとなしい方でした。

「うつ病だと思うので 治療しましょう」ということになりました。家族も気にはしていたけど 気づいていないと

いうので 一週間後に 奥さんと来てくださいと話しました。

でも何日もしないうちに 自殺を図って 救急で運ばれてきました。さいわい一命はとりとめましたが、

本当の重いうつ病の方は 訴えるエネルギーさえないので まわりも気づかないくらい 影がうすくなります。

診察場面でも、はい、はい、と答えて さっさと帰ろうとされるので 重い うつ病は 本当に見逃されやすいです。

完璧に自分の中で悲観している、訴えるエネルギーさえない。だから 重いように見えなくて、精神科医でさえ

見逃してしまうことがあります。

朝の気分を大切にしよう、という題名が 横道にそれてしまいました。

健康なときから 自分自身の朝起きたときの気分に注意をはらいましょう。

家族の方が さわやかな顔で起きていらっしゃるかどうか 観察しましょう。

夫婦でも 子供でも、朝は忙しくて ろくろく相手の顔を見たこともないわ、なんてことはないですか。

ゆううつなときには 前日に無理をしていないか。前日に嫌なことはなかったか 胸に手をあてて

考えてみてください。