これから話すことは、私の話の中で一番大事なことです。
神田橋 條治先生の著書「精神科養生のこつ」という本に、このことが詳しく書かれていて、
わずか8頁のその章が、199頁ある残りの章全部をあわせたより、大切だと書かれています。
わたしが4年前に出した「わが子の気持ちがわからなくなる前に読む本」の中や、私の以前のHP「しあわせさがしの
精神医学」でも、うまく言えないながら、そういうことの大切さについて書いています。
☆ ☆ ☆
赤ちゃんの時は、赤ちゃんが喜ぶ顔見たさに、お母さんは抱っこしてくれたり、鈴を鳴らしてくれたり、おっぱいを
あげたりしてくれます。しかし その後、わずか1~2年で、お母さんの態度はガラリと変わっていまいます。
そのあたりのところを 宗教家の井上ウィマラさんが、ご自分の息子さんを育てた経験から、書いていました。
2歳のころ、ウィマラさんの子供がコンビニ デビューをすることになりました。彼は言いました。
「さあ、今日はなんでも好きなものを買ってあげる」 子供は大喜び! 目を輝かせてキャラメルを手にとったのです。
手にとったとたんに ウィマラさんは「それはダメだよ。虫歯になるから」と、思わず止めてしまいました。
止めてから気がついたのでした。「何でも好きなものを買ってあげる」と言いながら、子供が好きなものの名を言うと
「それは高いからだめ」「それは・・・だからダメ」というのです。それなら最初から「なんでも好きなものを。。。」と
言わなければいいのですが、親って つい言ってしまってから「あれはダメ」「これはダメ」を繰り返しているようです。
そうやって、好きなものをさがす気持ちの失せる子供を大量生産してしまっているのです。
こんなこともあります。子供が習い事をやめたいと言い出しました。
「なぜ?」「好きになれないの?」「好きだから続けたいのに、何か続けれない理由があるの?」
そんなことは ただの一回も聞く前に「あきっぽいのはダメ」「やめ癖がつくからやめたらダメ」「自分で言い出したことだから
勝手にやめるのはわがままだからダメ」とにかく、子供の心がどうなのか 聞く耳を持っている親は極少です。
嫌いなことはやめて、何が好きになるだろうなどと考える暇もなく、いったん始めたことをやめると人間がだめに
なる、くらいにおどしにかかるのです。
子供にしたら、もう 何がすきで 何がきらいなのか わけわからなくなってしまう。
そうやって大人になるものですから、好ききらい関係なく、「ねばならない」という意識で生きていくようになって
いきます。
そしてある日、こころが壊れるのです。
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好きな場所で、好きなことだけやって、好きな人に囲まれて、能力にあったことだけをやっていて
それが心地よいと感じることができたなら 、突然心が壊れることはありません。
しかしそんなに気ままに人生を送れることは 普通はあり得ないことです。
じゃあ なぜ 「好き」を大事にするのでしょうか。
実は「好き」「気持ちいい」を見つけるのは、そうやって気ままに生きていくのが目的ではありません。
自分がどういう人間かを知るためです。
自分が自分と会話することで「自分って何者だ」ということを知っていくのです。
嫌いな(苦手なこと)ことから 逃げるために、好きなことをさがすのではなく、好きなことを伸ばし、きらいなこと
(苦手なこと)と上手に距離をとったり、きらいな(苦手なこと)ことに それとわかっていながら挑戦するために、
好きや嫌いをさがすのです。
嫌い(苦手)だと知らずに挑戦して失敗して、自分はダメな人間だと決めつけて、うつ病になって 自殺までする人がいます。
でも、嫌い(苦手)だから出来なくても仕方がない、とわかっていれば 心構えが違ってきます。
病気になるか、ならないかは それくらい微妙な問題で 方向が違ってきます。