連載コラム(48)心と体はつながっている

 

 

 

<48>⼼と体はつながっている

モノが⾷べられないという訴えで働き盛りの男性が来院された。これまであちこちの病院を回り、どこも悪くないと⾔われた。しかし⾷べられないという状態は改善しない。内科では胃薬を、精神科では安定剤を処⽅されたが⼀向に良くならず、不満になっては医者を変える。

私のところはもう5カ所⽬で、さすがに疲労困憊されていた。胃や腸はストレスを受けやすい臓器だ。おそらく⻑年のサービス業で気を使い続けた結果かもしれないと推測した。サービス業はその⽅の最も苦⼿とする分野だったが、転職する勇気もなかったようだ。

最初は重湯から飲んでもらった。さすがに重湯と⾔われて驚かれたようだが「とにかく喉を通ればなんでもいい。⾷べられなければ⽩湯でもいい」と話した。元通りに⾷べようとしたり、他の⼈と⽐べたりするから良くない。⾷べたいもの、喉を通るものを⾒極め、そこから始めることだ。

仕事はとりあえず脇に置いた。妻と話し合い、妻が腹をくくって当⾯は⼀家の稼ぎ頭になることとなった。それが安堵となり、お粥やバナナが⾷べられるようになった。それでいいと励まし続けてだんだん良くなり、5年を経た今では元気に主夫として家事全般をこなしている。仕事には就いていないが、それがこの⽅にとってベストではないが、ベターなのだし、いろんな家庭の在り⽅があっていい。

⼼と体はつながっていると⾔われる。しかし⼼が疲れていても⼼は⾒えない。本⼈も家族も気づかないまま⻑年経過することが多い。結局体に症状が出て来院し、それを説明してもまだ半信半疑である。

実は先⽇、私⾃⾝も精神的ストレスが体に直結する体験をした。たまたまある⼈から私の弱点を厳しく指摘されることがあり、精神的にまいってしまったのだ。⼈は、⾃分でも気にしていることを注意されるとこたえるものらしい。

そしてその夜、⼤変なことが起きた。帰宅して⾷事をすませ⾵呂に⼊ったのだが、湯船につかった瞬間、ひどい不整脈性の頻脈発作に⾒舞われた。不整脈発作は私の持病で過労や精神的ストレスで出てくる。「疲れたな」とは思ったが、精神的ダメージに加え、温冷などの物理的刺激は⼈が考える以上に体が反応するものだ。しかしたったあれだけのこと、ここまで体にくるとは意外だった。

⼼の状態は、正直に体に現れる。⼼と体がここまでつながっていることを改めて思い知らされた出来事だった。それにしても、たとえ精神科医であっても⾃分の⼼はなかなか読めないものである。このごろ⾃分の⼼と体が怖い(笑)。荒く扱ったために突然、⽛を剥き出さないかと思って。