しあわせ論(55)心の生活習慣病

 

このごろ、⼈⽣の荒波をたくましく乗り越えてきたはずの7 0歳前後の⽅の受診が増えている。その年齢ともなれば認知症 では︖と思われるかもしれないが、必ずしもそうではない。で も何かしらの精神的変調に陥っているのだ。私はこういう⽅た ちを「⼼の⽣活習慣病」とひそかに名づけている。⻑い間の⼼ の癖が根底にあり、それに⽼化や病気や喪失体験などが加わる と、精神的にもまいってしまうのだ。

先⽇も75歳の男性が、めまいとふらつきを主訴に来院され た。いろいろ受診したが悪いところはないと⾔われ、最後に当 院を紹介された。めまいとふらつきは安定剤で軽くなったもの の、根本的には良くならず、だんだんイライラ感や暴⾔が増え ていった。妻も同居する息⼦夫婦もどう対応したらいいかわからず困り果てていた。⻑い年 ⽉に家族関係も固定化しているのだろうと思えた。

家族に昔からのエピソードなどを聞いてみた。「そういえば65歳の頃、⾼額な農機具を 勝⼿に買ったことがありました。⾔い出したら聞かないんです」と⾔う。55歳ごろのご主 ⼈は︖と聞いてみた。「会社員をしていましたが合わないと⾔って辞め、農業を専業にしま した」。40歳は︖30歳は︖とさかのぼっても「とても神経質で、⾝体の不調を気にする あまり救急⾞を呼ぶこともありました」「頑固で妻の私の⾔うことなど聞きません」と続 く。  やはり若い頃から⼼の癖はあったようだ。

めまいやふらつきなどの体調不良が引き⾦とな り、さらに⽼化で頭が固くなって融通が利かなくなっている。気持ちを切り替えるにも無理 があるのだろう。

「なくて七癖」ということわざがあるが、⽋点のない⼈などいない。だから⻑寿社会を迎 えた現代では、⼼の⽣活習慣病はほとんどすべての⼈に多かれ少なかれ起きうる。

ではどう考えたらいいか。

今現在の⾷べ物や運動不⾜で将来、⽣活習慣病が起きるよう に、現在の⽣き⽅、対⼈関係や考え⽅の癖、環境の変化に対する適応⼒などから、10年後 20年後の脳や精神の状態はある程度予測できる。今若い⼈も若いからといって決して安⼼ はできない。

私の⾝にもいろいろなことが起きる。原稿を書いて送ろうとしたらパソコンが壊れた。夫 婦げんかもあった。勘弁してほしいと思い「ああ、もうパソコンを使う⽣活から離れたい」 とこぼした。

夫いわく「それくらいの苦労はあったほうがあなたのためだよ」。「パソコン に⼿こずり、夫が⾃分の思うように動いてくれないといって⼿こずり。思うようにならない ことがあるからこそ頭も気も使い⼯夫するのでしょう。何もなかったら頭が固くなる」と⾔ われてしまった。

たしかに︕

私もいまだに⾃分と戦っているのである。