精神科の役割

30年前には多分2桁だった精神科外来患者数が、1996年には185万になり、

2005年にはなんと268万人になったという。

まだまだ精神科クリニックは増え続けるであろうが、それでも対応しきれる数ではない。

うつ病は「こころの風邪」で(わたしはこの言葉に共鳴していない)、早めに精神科を受診するように、

というのが、最近の合言葉だ。

しかし、精神科を受診する患者さんが、こんなに増えてもいいのだろうか。

「早めに受診する」ということ自体は、間違っていないと思う。

でもあえて言う。半分は間違っている。

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うつ病の患者さんが、早めに発見されるような対策として、啓蒙活動をするとか、

一般医と精神科医が連絡とりあうとか、かかりやすい精神科クリニックをたくさんつくるとか。

そういう対策をすることは正しいと思う。

わたしもそういうことは、できるかぎり進めていきたいと心底思っているひとりだ。

しかし、その上での発言なので聞いてほしい。

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どこの精神科クリニックも混み合っていて「わたしは一日50人の患者さんを診ている」というのが

精神科医のひそかな自慢話になっているのをご存知だろうか。

しかし、一日50人ということは、ひとりの診療時間数分以内である。

精神科の診療点数は、「精神療法」という診察代金だけで成り立っていて、それは 3600円なにがしか

である。再診料や処方箋代を含めて4600円くらいだと思う(7年前に開業していたころのこと。今もだいたい

同じのはず)

3分間の診療でも 4600円、一時間の診療でも同じく4600円いただける。たくさん診るほうがいいに決まっている。

その上、人の心理として スーパーでも何でもそうだが、混みいっているクリニックほど人は行きたくなる。

たいした診療ができなくても、とにかく一日50人を診療すると、一日の売り上げは25万。

そこからビルの賃貸料金やナースや事務員の給料を支払うと、医師の給料は 勤務医よりは高くなる。

しかしもし、ひとり20分かけたらどうなるだろう。

一時間4人、正味7時間で28人。売り上げは12万。

しかし、ちょうどいい具合に 28人の患者さんは来てくださらない。医師の給料は勤務医の半分以下になる。

だから精神科のクリニックというのは、「はやる」 か 「はやらない」かのどちらか。

というより、はやらせるしか 生きぬいていく道がない。

丁寧に診ていると、その日の売り上げから ビルの賃貸料やナースの賃金を支払えなくなる。

クリニックを開業するということは「必死で患者さんの数をこなさないと経営できない」

ということになる。

ということは 医師は「軽い患者さんほど歓迎する」ということだ。

患者さんになおってもらったら困ることになる。

時間のかからない軽い患者さんがいないと経営がなりたっていかない。

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現在286万人の精神科外来患者さんがいるというが、その人たちは いったいどれだけの

診療時間をかけてもらっているだろう。

そして、「治療が終結する方法」を医師から教えてもらっているだろうか。

多分、一回かかりだしたら「はい、薬。はい次回は。。。」という具合に 一生精神科から

足が洗えないような しくみの中に いやおうなく はまっていないだろうか。

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本当の名医は、その人のこころの癖をさがし、それを克服する方法を一緒になって考えてくれる医師。

しかしそんな医師は、日本国中さがしたって そんなに いやしない。

いや、みんな良心的だし、まじめだし、まちがいなく誠実に仕事をしていると思う。

そういうことじゃなく、意識のレベル、しくみを含めての話なんだ。

それともうひとつ。

「早めに精神科に」という啓蒙活動も わたしは好きではない。

なんでもかでも、精神科医に丸投げしている気がする。

自分で考え、家族で考え、賢い友人に相談し、学校や職場で解決できることまで

精神科に行けば・・・という風潮が今、あきらかにあると思う。

半歩先を歩くわたしとしては、そこのところを わかってもらえる診療活動をしたいと思うのだが。

あ~あ、半歩先でなく、一歩先を歩ける能力がほしいよ。

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人が一生の間に、精神科に一度でもかかる確率は 4人に一人だそうです。

家族が4人いたら、誰かひとりは、一生の間に精神科医のお世話になります。

そういう時代にわたしたちは生きています。

このブログでは、読み手の方たちが、自分のこころの問題を自分で引き受け、自分の頭で考える

きっかけになるといいなと思っています。