連載コラム(4)母と娘。成人したら別れてもいい

 

年に⼀度の「お盆」の季節となりました。墓参りや帰省、家族だんらんのこの時期、「帰省したくない」「⺟に会いたくない」という⼥性患者さんが意外に多いことに最初はとても驚きました。

平穏な家庭⽣活を営み、⼩学⽣の娘さんが2⼈いるA⼦さんとは、もう何年にもわたるお付き合いです。彼⼥から「実家は⾞で1時間ほど。夫婦2⼈暮らしの⺟親から、孫たちの誕⽣⽇など記念⽇ごとに誘われるんです。でも⾏きたくないんです」と⾔われた時、私はすぐに返事ができなかった。カウンセリングならそこから話が始まるのでしょうが、⼗数分の診察では、患者さんも深いところまで聞いてほしいわけではないことが察しられたからです。

私は「いろんな⺟⼦の関係があってもいいと思うよ。⾏きたくないって⾔えないの︖」と⾔ってみました。「⾔えないんです。罪悪感が出てきます。でも私は⺟と相性が悪いんです。苦痛です」。お説教をしても意味がないと思った私は「お⺟さんを重く感じる⼈は結構いるよ。⼦どもたち(母にとってはお孫さん)だけ送り出してあげればどう︖」と提案したのです。それ以来、お孫さんたちは実家に⾏きますが、A⼦さんはもう何年も⺟親と会っていないはずです。

そんな母子関係もあるって知っていましたか。

実はA⼦さんの了解のもと、⼀度だけご両親と会ったことがあるんです。

今はやりの⽥房永⼦著「⺟がしんどい」、信⽥さよ⼦著「⺟が重くてたまらない」、岡⽥尊司著「⺟という病」などの本に⾒られるような重苦しいお⺟さんには実は⾒えなかったんです。ごく普通の平凡な、また愛の感じられるお母さんでした。

「なぜか分からないけれど、娘さんはお⺟さんが苦⼿らしいんですよ。お⺟さんもご⾃分を責めないでください。⼦どもっていうのはね、この世に出てくる時、お⺟さんのおなかを借りるだけなんです。お⺟さんの持ちモノじゃなく、通り道なだけです。だから20歳を過ぎたら別⼈格。別々の⼈⽣を歩むことが⼀番です」と持論を展開しました。

ここがポイント!

お母さんは、おなかを貸してあげただけですよ。そうやってこの世に出してあげたと考えればいいんです。

この持論、お⺟さん⽅に結構受けます。

「兄弟、顔は似てるけど性格が全然違うんです。道理で」「考えや価値観が親と似てないんです。なるほど」と笑いを誘う。私は「⾝体を借りるから顔や体形は似るんですよ」と返すんです。

また反対の場合もあります。⺟親が娘をかわいいと思えない場合です。これもまたタブーで「⼦どものいない⼈のことを考えなさい」と諭されそうですね。とても言える言葉ではないです。でも多いんです。私の職場でさえも、同感する人、けっこういます。以外でしょう。でも、そんなお⺟さんは病気の⼦どもを持っていることも多く、どこかで頑張り過ぎたのかもしれませんね。いいお⺟さんでいたい。⼦どもの気持ちに添ってあげたい。なんでも頑張り過ぎるとどこかで無理がきて、結局は嫌いになってしまうことがあります。

そうですよ、頑張り過ぎて嫌いになっちゃったんです、きっと。

⺟と娘、時には難しい関係ですが、どんな場合でも⾃分を責めず無理せず、それぞれの⼈⽣を精いっぱい楽しんでほしいなぁと思います。