連載コラム(10)外の風に当たるって大事

⼼の病にかかると、外に出られないと⾔い、家に閉じこもる患者さんが多いです。

そういう患者さんに対して家族も医療者も「少しは外に出掛けましょう」と⾔ったところで、出てくれるわけではありません。外に出られるくらいなら、ここには来てません、と反論したくなる方ばかりです。

外に出られない、と⾔い張る患者さんに「じゃあ、朝起きたら、カーテンだけでも開けてみては︖」と提案してみました。

そのうち、カーテンだけは開けられるようになった、とおっしゃいました。

「どんな⾵景が⾒えた︖」と聞いてみました。

「隣のおうちの壁が⾒えただけです」と素っ気なく答えた後で、「でも、空が⾒えました」と⾔ってくれたときはうれしい気持ちがしました。

次に「ちょっと窓を開けてみましょう」と提案してみました。患者さんは本当に少しだけ窓を開けるようになりました。「⾵が気持ち良かった」と話してくれました。

私は少しずつ⽬標を上げていきます。

「裏庭まで出る」ことになり、「裏庭を少し歩いてみる」ことができた時は患者さんもうれしそうでした。

いつしか夫とスーパーに⾏けるようになりました。

それから数年がたちました。

そしてなんと! 今では週2回のパートに⾏っているんです。大⼤進歩です。

もっと病状の重い⽅もいます。そんな⽅にはさらにハードルを下げます。

つまりまずは、ご家族が「外の⾵」を運んであげるのです。

家族が帰った時、患者さんの部屋の⼾を開け「ただいま。今帰ったよ」と⾔うだけでも「外の⾵」が⼊ります。季節の果物を買って帰り、患者さんと⼀緒に⾷べるのも「外の⾵」です。

⼈間にとって外に出ることは⼤事ですが、家の中に「外の⾵」を⼊れることはもっと必要です。

話はちょっと⾶躍しますが、親⼦の絡む事件なども閉鎖的な環境で起きることが多いように思われます。

家にこもりがちな⽅にとって、家族が帰ってきたり、お客さんが来たりするだけで、家の⾵が動くのが分かります。

症状のすっかり安定した⽅が診察に来ることも、同じ意味です。「出掛けてくる」ということに意味があり、定期的に診察に来る⽅のほうが再発しにくいという事実があります。

「外の⾵を⼊れる」「外の⾵に当たる」ことは、⼈間が社会の⼀員として⽣きていく基本です。

どんなに閉じこもっている患者さんでも、そうやってカーテンを開けたり、外出から帰った家族が声を掛けたりすることなどから始め、無理なく少しずつハードルを上げていくと、必ず外に出られるようになります。

押しつけは逆効果。出無精の⽅に「たまには外に出てみようよ。どんな⾵が吹いていたか教えてね」とさりげなく⾔ったことがありました。

ある時、コスモスを⾒に出掛けたと⾔うので、驚いたことを思い出しました。

押しつけがましくなく聞こえたので、ふっと⼼が素直になれたのかな。

(**注* 自転車が好きなので、この写真はとても気にいっています。乗りませんけれど)