連載コラム(13)枠づけで依存防止

新しい年を迎えました。

私の元⽇は、普段と変わらず当直とそれに続く⽇直の仕事から始まりました。患者さんたちにとっても「正⽉」は単に⽇常の続きにすぎないことが多く、また医療従事者も⽇直や夜勤はお構いなしにやってきます。

ところが、お正⽉が特別に忙しいかというと必ずしもそうではないのです。精神科の急変患者さんが元⽇から多いわけではありません。

つまり、⾝体の病気は意思と関係なく起きると思われますが、一方、⼼はある程度意思に影響されるからではないでしょうか。

「虫垂炎」も「肝炎」もお正月かどうかなど関係ありませんが、かたや心の病気は、お正⽉には病院はやっていないと思えば、パニック発作が元⽇の朝から起きることは⽐較的少ないのです。

「正⽉はどこの病院もやってませんよ」という教育をしていると患者さんもそれなりに⼼構えをつくるのです。

これを精神科では「枠づけする」と⾔います。境界線をつくることで、気持ちが引き締まったり、規律を守りやすかったりするということです。

反対に、我慢強くない患者さんを周囲がとても⽢やかすと、患者さんのわがままが増⻑して症状が悪化することはしばしば見られます。

他にも例を挙げてみましょう。

私の病院の外来は午前中だけです。が、以前に患者さんが午後にも来られた場合には診ていた時期がありました。すると午後の「急患」と称する患者さんは増えていったのです。冷たいようでもきちんと「外来は午前中だけ」を徹底してから、午後の「急患」はあきらかに少なくなりました。

また、私の受け持ち患者さんの数が少ない時期に、夜間休⽇⽤の電話番号を全員の患者さんに教えたことがあります。驚いたことに、その全員から「緊急」の電話があったのです。電話番号を「知っている」とつい電話で助けを求めたくなるのが⼈の⼼理なのでしょう。

私も同じ。パソコンが苦⼿なので、パソコンお助けマンがいます。相⼿の携帯電話を知ってしまうと、パソコンがこじれたときに「翌⽇まで待つ」とか「⾃分で努⼒をする」前に携帯電話につい⼿を伸ばしてしまう⾃分がいます。事務所の電話しか知らないと、努⼒しなくても時間外電話をかけなくてすむのです。これも⼀種の「枠づけ」だと⾔える。

精神科の治療では治療⼿段として「枠づけ」を⾏うのですが、⽇常の暮らしの中では、社会が、あるいは親が⼦どもに、夫(妻)が妻(夫)に、⾃分が⾃分に枠をつくってあげることで、依存や乱れや無理を防いでいます。それ以上超えたらだめよという境界線を、外から内から設けてあげるのです。

ちょっと窮屈な感じがするかもしれませんが、⼈間が⽻⽬を外さないで⽣きていくために⼤切な精神科的視点です。

今年の始めはそれを知っただけで、愚痴を聞いてくれない優しくない夫(妻)を持っている⼈も背筋が伸び、「そっか、これも愛か」と思えるようになるかも。

(:注* ちょっとむづかしいでしょうか。頭ではわかっても、生活の中で具体的に応用して考えるのはハードルの高い視点かもしれませんね。まあ、家族や友人の愚痴も優しく聞いてあげればいいというものではない、というくらいに理解していただければと思います)