連載コラム(15)子育ての先を見つめて

⼦育ての⽬的は「育てる」ことですが、「親からの⾃⽴」までだと認識している親は少ないのではないでしょうか。

⼦どもなんて普通に育てていれば、普通に家を出て⾃分で⽣活していってくれると漫然と思っているのが⼤抵ではないでしょうか。

ところがそうはいかない、という例を嫌というほど⾒てきました。

そんな中で、障がいを持った⼦の親から学んだことをご紹介したいと思います。

⼭梨に移住したころ、30歳の精神遅滞の⻘年が受診しました。

彼はグループホームで暮らしていました。スタッフの話では、東京で⽣まれ育ったが、幼いころに障がいのあることを知った両親が、親だけで抱え込むのではなく、いずれ親と離れて暮らしていけるようにと育てた結果だということでした。(私は親の先見性に感心しました)

また別の事例もあります。最近、発達障がいの私の男性患者さんが就職先が決まり、いよいよ1⼈暮らしをすることになりました。
この⽅は幼いころに障がいが分かってから治療を続けている方です。
⼀⼈っ⼦なので愛情独り占めでとても可愛がられて育ちました。が、両親は⼀⽅で「この⼦の⼒で⽣活していけること」を⽬標に育ててきたと言います。

⼈付き合いが下⼿で、能⼒に偏りがあるなど多々⼼配な点があったので、親元から離れることに困難があることは想像できました。そして⼤学に⾏く時、彼の第1志望は東京の⼤学でした。

⼼配する⺟親に「若いほど適応⼒はありますから、この時点で⼿放すことも有りです」と話したが、東京ではなく、地元の⼤学にだけ合格しました。

「学業も⼤事ですが、体を使って働く⼒のほうがもっと⼤事です」という勧めに従って、スーパーの⿂屋さんでアルバイトをしました。

さて、卒業する段になって、障がいを隠して就職するか障がい者であることを認めてもらった上で就職するかだいぶ迷った後、障がい者として働く道を選びました。そしてようやく温かく迎えてくれる会社が⾒つかったのです。

その会社は家からかなり近く、家から通勤できないこともない距離です。しかし両親はあえて、1⼈暮らしさせる道を選んだのです。

この年齢の⼦どもは素直なので、親の⽅針はとても⼤事です。どちらにもころぶ時期だと言えるでしょうかこの時期を外すと、⼦は親の⾔うことを聞かないし、また親元での暮らしがいかに楽ちんであるかを知ってしまうと、家から離れられなくなります。

会社が家から通える範囲であっても家から離しなさい、と私はいろんな⼈に助⾔します。アパート代がもったいないなどは論外です。

子供の自立とお金を図りにかけるなんてトンでもない。⼈間はもっともったいないことをいっぱいしているではないかと思うのです。

⻑い将来を⾒通せば、わが⼦が⾃分で⾃分の⾝の回りを整え、⽣計を⽴て(あるいは社会の援助を受け)暮らしていけるように⼿助けすることが、どんな親にとっても⼀番の務めではないでしょうか。

これら障がいを持った親御さんたちの真摯な⼦育てから、私が学んだことはとても⼤きいと感じています。

(:注*アパート暮らしも、もう4年目に入ります。年に二回ほど、今でも診察に来てくれます。お母さんとはスーパーや銭湯で2年に一回くらい出会います。そのたびに彼の成長ぶりを知り、目を細める私なのです。高校3年まで、母親と銭湯に来ていて驚きました。でも親がうまく道筋をつけさえすれば、そんなことは小さなことなのですね)