私の患者さんには、働いていない⼈も多いのです。
働くことは病気だとか健康だとかと関係なく⼤切だと思うので、無理強いはしないのですが、チャンスがあれば勧めることにしています。
必要は発明の⺟という諺があります。必要に迫られての⼯夫こそが、発明に発展するという意味です。同じことが仕事にもいえると思います。
お⾦なんか⼆の次、とにかく働きたくて働きたくて、という⼈などそんなにいません。みんな⽣活のため、生活のために働いている⼈がほとんどです。ですから患者さんがお⾦に困っている時やお⾦を欲しがっている時に働きかけるのがコツだでしょうか。その時こそ提案のタイミング。
「あなたの欲しい物を買うお⾦はあるの︖」
「お⾦がないのにどうやって暮らしていくつもり︖」。
そんな問いかけをしているうちに患者さん⾃ら「働くしかないか」と思うようになることが多いです。そうなったらしめたもの。
⽣活保護で暮らしながら通院している35歳の男性患者さんは不規則な暮らしを⻑年続けていました。勤めはするのですが、どこも⻑続きしないのです。その彼に彼⼥ができた。
彼⼥は健康で普通に働いている方ですが、収⼊はかなり少ないようでした。
所帯を持てる状況ではないが結婚がしたい、⼦どもも欲しいといいます。
私は病気の⼈同⼠であっても同棲や結婚に好意的です。しかし「⼦どもを産む」ことに対しては、慎重にならざるを得ません。
「結婚は賛成だけど、⼦どもを育てることはとても責任の重い、またお⾦もかかることだよ」とアドバイスします。
そこで⼀⽇も早く⼦どもをという彼⼥も交えて話し合いました。
「同棲でも結婚でもいいと思う。でも⼦どもをつくることは2⼈の⽣活が安定してからだよ」と意⾒を⾔いました。
彼らは今現在の同棲に⽔を差されたように感じてとても落ち込んだように見えました。
⼼配していましたが、1カ⽉してやってきた2⼈。「反対された気がして落ち込みました。でも2⼈でよく話し合いました。そして今は同じ会社で製造作業員として働いています。絶対結婚したいと思って」。
あんなに調⼦の悪かった彼が⼀体どうしたというのだろう。
働くようになったのです。
そうしたら⽣活も規則的になり、気分の落ち込みも少なくなってきました。その後、彼の病状は明らかに良くなっているように思われます。
私の出版した本に「誰にとっても仕事は通院治療、そして作業療法。治療してもらってお⾦までいただいて感謝、感謝」という⾔葉があります。
ただ、働くことは誰にとっても⼤変なこと。
だからこそ、必要に迫られることが必須なのだと思います。
あれが欲しい。これも欲しい。
結婚したいし⼦どもも欲しい。
そうやって欲望や夢を持てる⼈間に育てておけば⼈は⾃然に働くようになると思います。
働くために⽣きているのではないのです。
夢を叶えるためにみんな頑張って働いているのですから。