連載コラム(24)「嫌い」を大切にしよう

 

もう10年以上もお付き合いのある⼥性患者さんがおられます。

第1⼦を出産後の不調で初診となり、遠⽅に引っ越してからも数カ⽉に⼀度通っておられました。

ところが、ほとんど忘れかけていたある⽇、久しぶりに来院された彼⼥はひどくやつれておられたのです。

ご主⼈は⽥舎育ちで、「わが⼦もぜひ⽥舎の学校に通わせ、⾃然の中でのびのびと育てたい」と強く願っておられました。彼⼥はできるだけ彼の望みを叶えてあげたいと思っていたのですが、⼀⽅で義⽗⺟との同居や慣れない⼭の暮らしに強い不安を持っており、実はそれが⻑年の悩みの種だったのです。

ところがこの春、とうとう⽥舎に引っ越したのだというのです。

それからわずか2カ⽉⾜らずで彼⼥はやつれきり、病気が再発してしまったのでした。

 

そんな時私は、「結婚っていったい何だろう」と思ってしまうのです。

 

わが家は夫婦共に再婚ですが、私の提案で結婚時にある取り決めをしました。

それは、「相⼿の『好き』には必ずしも協⼒しなくていいが、相⼿の『嫌がること』はできるだけしない」というものです。

 

例えば、夫がどんなに温泉好き、旅好きであっても、私が嫌なら付き合わなくてもいいし、責められることもない。

だけど、もし夫が、汚れた⽔回りが異常に気になる性格だとすれば、私は⽔回りをキレイにする「努⼒」を厭わない。(たかがこれくらいのことで怒るかなあ、と思わぬことはないが、それは問わない)

ここがポイント!

 

つまり、「相⼿の『好き』以上に、『嫌』を尊重する」と⾔うと分かりやすいだろうか。

なぜなら⼈は、嫌なことを我慢するのに⼤変なエネルギーを要するからだ。

何が嫌か、なぜ嫌なのか…。その思いを我慢したり、抑圧したりすると、たまりにたまってどこかで爆発してしまう。

あるいは⾃らの⼼や体を傷つけてしまう。

彼⼥の夫は、⾃分の夢を叶えることばかりに⽬を奪われ、彼⼥がいかに嫌がっているかについての思いやりに⽋けていました。

もともと仲の良いご夫婦なのだが、相⼿の嫌がることを強要したために離婚の危機に⾒舞われているのです。

彼⼥の場合は「⾃分がどれほど不安な気持ちを持っているか」に気づいて、それをしっかりと相⼿に伝えていました。

 

ここがもっとポイント!!

しかし、ここが⼤事なのですが、案外⼈は⾃分の「嫌」に気づいていない場合が多いのです。

「どうせ分かってもらえない」と諦めているうちに訳が分からなくなるのです。

 

そして「まだ我慢できる、まだ我慢できる」と思っているうちに、ある⽇突然修復不能な関係になったり、体が限界を超えて不調を起こしたりという例を、これまで数えきれないほど⾒てきました。

 

お互いにくれぐれも「嫌」を軽んじることなかれ、です。

(この記事を書いたあと、一年ぶりに彼女に電話を入れてみました。千葉の実家に身を寄せたのです。電話は通じませんでしたが、どうしているかしら・・・といつも気になります)