連載コラム(25)親しき仲にも距離感あり

先回は「嫌」を意識することの⼤切さについて書きました。今回は、その「嫌」との折り合い⽅について書いてみたいと思います。

会社に⾏けなくなった33歳の男性が来院されました。好きな仕事に就いて7年になるということです。

だけど、3年ほど前から上司と合わない。上司はやり⼿で前向き、部下からも⼀⽬置かれているそうです。なぜ⾃分が彼を苦⼿に思うのか分からないけれど、最近では顔を⾒るのも⾟くなってきたというのです。

思いきって、なんとその上司本⼈に相談したといいます。

懐が広いのか意外にも理解してくれ、できるだけ顔を合わさずに済むような仕事に回してくれたそうです。

しかし、それでもだんだんと気重になり、夜も眠れなくなってきたということで来院されました。

私は不思議だったのでいろいろと聞いてみました。

どうやら、内向的で不器⽤、地道にこつこつ仕事をするタイプの男性が、タイプの違う上司に無理に合わせているうちに、少しずつ無理が重なり、⾃分を否定するようになったと私は仮説を⽴ててみました。

 

「そう⾔えば僕は⼦どもの頃から、あまり嫌ということを⾔えなかったんです。親にも反抗したことないし。今回に関しても我慢し過ぎたのかもしれません。遅過ぎたかな」と浮かぬ顔で答えました。

 

今、流⾏りのアドラー⼼理学では、「⼈間の悩みはすべて⼈間関係の悩みである」と考えるそうですが、実際に新聞の⼈⽣相談を⾒ても、その⼤半は⼈間関係の話につきることが多いですね。

私の診察室でもさまざまな⼈間関係の悩みが渦巻いているように思えます。

しかし、そんな患者さんに私はよく、こんなシンプルな解決法を提案することにしています。

ここがポイント!

それは単純で明快。

単に「距離をとること」なんです。

 

「そんなことできないから悩むのでしょう」とか「逃げることになりませんか」と⾔わます。

そんなことはありません。

物理的には難しい場合でも「⼼理的に距離を置く」という⽅法なら考え⽅次第ではないかと思いますが、どうですか。

だけど⼈は、誰それが苦⼿とか嫌いとか⾔いながら、度々その⼈を思い出し、喜々として「いかに嫌いか」をくり返し話すことがいかに多いことでしょう。

嫌いと⾔いながら、とらわれていることに気づいてさえいないのです。

なぜだろう。なぜでしょう。

嫌いだとか苦⼿だとかと思う相手って、実はその⼈にとって気になる存在でもあるからなのです。

上司と部下、夫婦や親⼦。

⼈は「仲良くしなければいけない」という「ねばならない」にとらわれていることのいかに多いことかと思います。

そんな⼈たちに「もっと離れてもいいんだよ」と⾔ってあげたい。

⼈間関係で悩んだら⾃分や相⼿を変えようとする前に「必要以上に近づき過ぎているかもしれない」と⾒直し、⼼の中でダンシャリを決⾏することをお勧めしたいです。

いい⼈間関係のコツとはほど良い距離感にあり。

ではないでしょうか。