連載コラム(33)自分が変われば相手も変わる

 

 

 

<33>⾃分が変われば相⼿も変わる

精神科の患者さんの症状は、どこからが病気でどこからが性格的なものか区別がつきにくい。それもそのはず。⼼の病とは「⼈間関係の病」でもあるからだ。

⼈間関係の中で、⼈の⼼は⼀定の法則に従って動く傾向がある。満⾯の笑みを浮かべて「ありがとう」と⾔われた時、⾃然に⼈はうれしい気持ちになる、などはそのちょっとした例である。

精神医療では、その動きの法則性を⾒つけていくことが⼤切で必要になる。例えば、ダダをこね続けた時に根負けした親が⾃分のわがままを聞いてくれると、⼦どもはだんだんわがままを通すためにダダをこねたり、それがエスカレートしたりする可能性もある。こうやって親⼦の間で⻑年の間に困った性格や精神症状が形成されていくことはよくあることだ。私たちは患者さんと家族の⼼の関係性を探り、良くない⼒関係が働いているなら、それを別の⽅向に変えるよう働きかけたりもする。

先⽇、激しい不安障害で⼊院となったA君はまだ若い17歳。不安が起きるたびに家に電話し、会いたいと⾔う。それが1⽇⼗数回にもなって親がネをあげた。患者さんは発作を起こすと親が⾔いなりになることを無意識に知っている。発作を収めたい⼀⼼で⼦どもの願いをかなえ続けたツケは⼤きい。

また別の例だが、神経質で⼏帳⾯な強迫性障害のBさんには、おおらかでのんびりとした妻がいた。神経質な夫を持てば、妻はバランスをとるためにどんどん⼤ざっぱになりがちだが、妻が⼤ざっぱになればなるほど夫は不安になり、強迫的な⾏動が増えていた。

こんな時、患者さん⾃⾝を治療するのはもちろんだが、家族にも働きかけ、変わってもらわないと症状は改善しない。A君の両親とは、今後A君の⾔いなりにならないよう話し合う予定だ。Bさんの奥さんには、ご主⼈の症状を神経質すぎると決めつけないようにお願いした。そして奥さんも⼏帳⾯な⾯を出してくれれば、ご主⼈も安⼼すると助⾔したところ、症状は少しずつ改善している。⼈間はともすれば、相⼿ばかり変えようとする。というか、⾃分は変わりたくない、相⼿をばかり変えたいと思う⼈であふれている。誰でも⾃分は悪くないと思い、⾃分が変わることには強い抵抗を感じるものだ。

しかし、⼈の⼼が関係性の中でどちらにも動くことが分かれば、どうだろう。どちらがいいか悪いかではない。相⼿の病気が良くなったり、⼆⼈の関係が良くなったりすることが⽬的なのだから、思いきって⾃分から変わってみよう。「⾃分が変われば相⼿が変わる」は真実である。ぜひ試してみてほしい。