「うつ」が増えている。

職場を総合病院に変えて半年余りになる。ベッド数が500以上もある大きな病院

だ。そんな病院の精神科外来を担当していると、昨日まで極く普通の社会生活をして

いた人 が、精神科に回されてくる。

わたしはふたつの病院で週に2回、新患外来を受けもっている。外来は予約制で一日

人しか予約をとらないという贅沢な診療形態なので、半年で新しく診た患者数は、

だいたい60人くらいだろうか。

統計をとったわけではないが、その中で、うつ病を疑われてきた人は3割くらい。

3割のうち、診察の結果、「うつ」ではない人も多いのだが、たしかに「うつ状態

だ」と診断した人も多く、10人あまりが、「うつ」と診断され、治療を施した。

「うつ」が増えているという報告があることは知っているが、実際自分の感触として

「増えている」と感じる。そして「うつ」はこわい病気である。「心の風邪」なん

かじゃない。

私が新患として診た10人あまりの患者さんのうち、すでに2人が亡くなっている。

ょっとすると癌より死亡率が高いのじゃないかと思うくらいである。転地されたり

転医されたあと、亡くなったことを知ったのだが、ずっと私が診ていたとしても自信

がない。それほど「うつ」というのは、見逃しやすくこわい病気だ。 

わたしは若いころから、うつ病の診断が一番むつかしいと感じていた。インターネッ

トが発達するようになって、うつ病の診断がマークシートで出来るなど書いてある

と、「そんなの出来るわけがない」と思っていた。 しかし最近、やっぱり「うつ」の

診断はむつかしいのが本当だと思う。「うつ」の診断と治療ができてやっと一人前の

精神科医だとすれば、一人前の医師はさぞかし少ないことだろう。総合病院という現

場の第一線に立って、ますますそう思うようになった。 

総合病院というのは、あらゆる病気のルツボ。ルツボの中から、精神的な病気の有無

見つけ出していくのは今までになかった経験。大変だけどおもしろい経験だ。心の

病気が、ここまで身近なものだということをあらためて認識した私としては、「う

つ」に対する関心が今まで以上に強い。雨の今日は、一日図書館で過ごした。買って

おいた本を読んだり、週刊誌に目を通したり、こ原稿も図書館で書いた。

せっかく休みを多くしたのに、なんだかだと仕事のことを考えているなあと思うのだ

が、精神科医というのは、大変だけど得がたい経験なので、できるなら 現場をやる

だけでなく、病気のことをなんとかわかりやすい言葉で伝えていきたいと苦心してい

る。

 (ワードで書いたものをコピーして張り付けたら、こんな間のびのした原稿になってしまった。直しようがなくすみません)