ある旅立ち

妹が、今夜、激しく雨の降る中、新しい住まいに旅立って行った。

来たときと同じ、たったひとりで、猫のレオ君を連れて。

妹は泣き顔だった。

わたしたちは、妹に幸あれと笑顔で送り出した。

悲しみは不幸じゃない。

辛さも不幸じゃない。

離婚も不幸じゃないし、貧乏も不幸じゃない。

淋しさや孤独は不幸じゃないし、病気も不幸じゃない。

別れは悲しいけど、不幸じゃないし、リストラだって不幸じゃない。

この4ケ月、笑ってばかりいた。

美味しいといって笑い、レオ君がかわいいといって笑い、女ふたりで夫をいじめて笑い、

わたしが抜けてる、と言ってみんなで笑い、した。

すべてを失って戻ってきた妹を囲んで、笑ってばかりいた。

「気がすむまでいたらいい。でも おとなになったら 誰でも自立しなければいけないんだ」

その言葉を合言葉に、自然の成り行きで、すべてが進行していった。

人間は本当に愛され満足するとポロリと葉が落ちるように、自立できるのだ。

わが家に来たとき、妹の持ち金は一万円を切っていた、それが全財産だった、本当に。

住まいも仕事も失い、バゲットに レオを入れて、たったひとりでやって来た。

そしていまどき珍しく「つき離す主義」のわたしたち夫婦は 一円も貸さなかった。

これからの妹の人生はきびしいと思うけど、でも とてもすがすがしい。

わたしたち3人は、何物にも変えがたい出会いと別れを経験したと思う。

同じ釜の飯を食べるという経験は、すごいことだと今、思っている。