「心の病と向き合うために」講演下書き・1

ひさしぶりで講演を引きうけることにした。

昔はかなりの数、やっていた。

5年前に体調を崩してことわることにして以来だから5年ぶり。

あわてて寺澤芳男さんの「スピーチの奥義」光文社新書を買ってきた。

間にあうかなあ。

講演をやった最初のころ、コーチだった近藤真樹さんに「一字一句書いていけ」

と言われた。

「なんだ。スピーチのうまい人は、ちゃんとそれだけの準備をしてる努力の人なんだ」

目からウロコであった。

そこで、最初の挨拶から書いていくことにした。

話すことを一度、一字一句書くことから始めて、だんだん変化球を添えていった。

あるとき、子育て中のお母さん相手だというので準備していったら、子育てを

たのまれているじいちゃんばあちゃんばかりが子供をおんぶしてやってきた。

これにはマイッタ。

また、生活補導員だというので、女性が多いと思って準備していったら

8割が警察あがりの男性だった。

この時も驚いた。が、内容を全部即座に変えて話した。

男性は、理屈で理論でもって説得しないと聞いてくれない。

女性は具体的な話や生活感のある話を盛りこまないといけない。

お年よりは「講師自身の経験」を話さないと納得してくれない。

その日になってみないと顔ぶれのわからないことが大半である。

さて、今日は近藤さんにも言われたことだし、寺澤氏の本にも書いてあることだけど。

まず自己紹介の大切さである。

自己中心の物事を考えれば、自分のことなど長々としゃべるなんて・・・・・と思ってしまう。

しかし聴衆は、わたしという人を知らない人が多い。

まず、どんな人であるかについて知りたいし、身近に感じてもらう必要がある。

それに聴衆も想像以上に緊張している。

まず聴衆の気持ちをほぐし、わたしという人を知ってもらい、身近に感じてもらう。

そして、そんな人の話だったらぜひ聞いてみたい、と楽しみにしてもらう。

そういう準備工作が必要なのだ。

       ☆    ☆   ☆

最初のジョークが大切だというが・・・・・・・

あなた方は5年ぶりに私の講演を聴ける運の良い方たちです。

診察を大切にすると講演はできない、反旗をひるがえして講演を受けたのは

ひとえに「本を知ってもらいたい」一心からであったことを正直に言おう。

どれだけ売れるかについて日本中の人が関心を持っていると聴衆をもちあげよう。

そして、本を売ることは決して私の利益になるのではなく、たったひとりでも多く

困っている人のこころに響いて、誰かが助けられるのだと話そう。

       ☆    ☆   ☆

ほとんどの人が関心を持っていることがある。

それは「なぜこの先生が精神科医になったか」ということだ。

わたしは、消去法で決めた。

なれない科を削っていったら、残るは精神科しかなかった。

これは本当のことだ。

大事なことを決めるときには、大仰な理由がなくてはいけないと誰もが思う。

でも、そんな決め方でもいいんだ、と多くの人が驚く。

私は不器用だったし、立っていると脳貧血をおこしたので、座ってやれる仕事しか

できなかった、という理由で精神科医になった。

だいたい、それを話すとみんな笑う。

そんな理由で決めたのに、40年以上も続けられるなんて可笑しい。

でもそうやってきめていいんだ、とほっとしたり、身近に感じるらしい。

「不適応能力」を発揮して物事を決めることは、決して邪道ではない。

そのことを自己紹介をかねて、さり気なく話してみよう。

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つぎには、なぜ今、ここにいるかについて皆知りたがる。

ヘンな関西弁を話すおばさん先生が、なぜ今、諏訪にいるのか。

これはぜひ聞きたいことだと思える。

これは話せば長くなるので。

20年前に金沢と大阪で開業していたとき、ぜひ再婚したいとさがし者をした。

近くにいなくて、インターネットで山梨の男性と知り合った。

10年前に山梨に来た。

5年前に夫が、突然「原村に住もう!」と言い出して、従った。

そんな話をすると「この土地が好きで住んでまでしているんだ」と身近に

感じてもらえる。東京から呼んだ大先生より、よほど親近感がある。

何かあったら、いつでも相談に行ける先生なんだ、と思えることはすごい。

そしてついでに話そう。

つぎつぎと環境を変えることで見えること、経験できることが異なる。

そのことが人間の成長につながること。

もし若い人が混じっていたら話そう。

若い人が混じっていなかったら。

4世代にわたって患者さんを診てきたことで、どんな人がどんな生涯を

送ることになるかが占い師より正確にあてることができると話そう。

これから話す内容に期待感を持ってもらえるようにしよう。

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私も夫も余裕がなく、猫たちを外に出してやれなかった。

一日中、この窓辺に寝そべって、まるですねていた。

猫もすねるんだ、かわいい。

「ベランダに出さないと、猫もただの置物になるね」と夫がいい、笑った。