中学二年生への講演から その1

近く、中学二年生を対象に講演をします。
しばらくブログに講演要旨を載せます。
良かったら読んでくださいね。

みなさん こんにちは。
精神科のお医者さんを長~く続けている○○です。
今日はよろしくお願いします。

講演は今までにたくさんやってきましたが、中学生の方をお相手に話すことは
初めてです。そもそも、中学校に足を踏み入れたのは、
わが子が中学生だったころ、つまり20年前以来です。
めずらしくてキョロキョロしています。

なんだかとてもうれしい気持ちですよ。

講演をたくさんやってきました。
大人になった人たちが対象でした。
でもね。大人の人はたいていは次の日になると内容を忘れて
しまうことが多いようです。

大人の人は「忘れん坊」でしょうか。いえいえ、そんなことはありません。
みんな賢い方ばかりです。なのに、なぜ忘れるんでしょう。

スポンジのたわし。土、布、木、そしてコンクリートの壁と。
だんだん固くなってしまい、水をはじきだす力も大きいでしょう?

それと似ています。硬くて吸収できないのです。

頭が良くて、知恵があって、自信もあって、心も強い人ばかりです。
すごくたよりになりますね。でも心や頭が強くても固いので、
他人の話を聞いても、心の底から受け入れることができない頭に
なっています。

苦労してお話の準備をして話しても、みなさんつぎの日には忘れてしまいます。
自分ではじきだしているんですね。

ですから、大人の人に対する講演はもうやらないと決めていました。
いつか、いつか、中学生や高校生の人を相手にお話しをしたい。

いつかそんなボランティアをしたいとひそかに夢みていました。

それはなぜだと思いますか。
中学生のころには、スポンジが水を吸収するように、
いろんなことを吸収していきます。そしてそれが大きな貯金となって、
将来の役にたちます。

中学生のときに、誰に教わったか。

誰に出会ったか。

誰の話を聞いたか。

どんな経験をしたか。

それは莫大な利息のつく大きな貯金となって、将来にわたって何年も
引きだされていくお金のようなもの。

けれど、先生は今も現役の医者です。
診療にいそがしくて中学校にくる機会もありませんでした。
そんなある日、ここの中学校から「お話しに来てください」とたのまれました。

本当にうれしかったです。
わたしにそんな機会が与えられるなんて夢のようにうれしいです。

ですが、先生は同じ先生でも、学校の先生と丸反対。
しゃべる仕事ではなく、人の話を聞く仕事なんです。
わたしの両親は共に学校の先生でしたので、学校の先生になったらどうか、
と言われました。

でも御免もうむりたいと思いました。
それは人の前でしゃべることが嫌いだと子供心にわかっていたからです。

ですから、みなさんを相手に講演をしたいという夢とうらはらに、
「たくさんの人の前で話すのは嫌だなあ」と最近ずっと悩んでいました。

先生はね。書くことは得意なの。
聞かれたことに答える形で文章にするのは大好きなんです。

でも話すことは、うんと苦手。
ですから、みなさん、今日は苦手なことだけど、
みなさんに会いたい一心で一生懸命話す内容を考えてきた、
ちょっとかわいそうな先生、と思って聞いてくださいね。

話す内容は「こころ」についてです。

先生は「精神科のお医者さん」なんです。

精神科のお医者さんと話す機会は、たぶん生涯で最初で最後になる方も
いるでしょう。
それくらい珍しいお仕事です。
みなさんがこれからの長い将来にわたり、

自分の「こころ」に目を向けられる人になったらいいな。

その機会になればいいなと思います。

みなさんは生まれてまだ、たった13年です。
80才、90才まで生きる人が多い中で、人生のほんの入り口にしかすぎません。

だけど、人生の土台を作るもっとも大切な時期の13年です。

あなた方はたった13年ですでに大きな山をふたつも越えています。

どんな山を越えたでしょうね。

ひとつはね。生まれる前の準備の時期です。

もう覚えていないかもしれません。
いえ、覚えている人など誰ひとりいないでしょうね。

でもあなた方は、天国の片隅で、生まれてくる仲間と肩よせあって、
この地球を見ていた時期があったんですよ。

どの両親にしようかな。どの人の子供になろうかな、って。

今日もご両親の来ておられる方もいると思いますが、
ご両親が結婚していなかったらあなた方は生まれてきていません。
ご両親がデイトしたり、恋愛したり、くっついたり、離れたりしながら、
最後は結婚に至って家庭を築く。

そのプロセスなくして、今のあなた方は存在しません。

あなたが生まれたことは、ご両親、そのまたご両親、そう。
過去のたくさんの歴史を
いっぱいその背中に背負って生まれたきたということなんです。

あなたのお父さんの精子とお母さんの卵子が結びついて、
あなたという子供ができたわけですが、もしも。
あなたが生まれようとした夜に、あなたのお父さんの仕事が長引いて
帰宅がいつもより遅くなった。

あるいはうんと晴れた日だったのに、その日にかぎって大雨が降った。

たったそれだけの理由で、あなたは除外され、別の誰かが生まれているんです。

あなたは永久に、この世に生まれなかったかもしれない。

それくらい、「生まれる」というだけでも大変なことなんです。
とてつもない素晴らしい機会をいただいた。

奇跡に近い出来事だったんです。

その奇跡をくぐりぬけて、生まれてきたのですよ。

大きな大きな山を一つ登って降りて生まれてきたんですね。

そのことをまず頭にしっかり刻んでください。

とても大切なことです。

そして事あるごとに、思いだしてくださいね。

生まれただけで奇跡なんだ、奇跡なんだ。

そのことを思いだしただけで、元気の出る日だってあるかもしれませんよ。

きっとあると思います。