連載コラム(17)自分で治す力・信じよう

精神科の敷居はどんどん低くなり、⼈々が気軽に精神科の⾨をくぐる時代。その中にどんな問題点が潜んでいるかについて書いてみたいと思います。

気軽に受診することは必ずしも悪いことではありません。軽いうちに治せるという利点があります。

しかし、どこからが「医療」で、どこからが本⼈の考え⽅や環境の問題であるかなどの線引きが難しく、そういう患者さんが多くなっているのが最近の特徴だと言えます。

急に会社に⾏けなくなった40歳の男性は、「上司とうまくいかなくなったが、最初は頑張って⾏っていた。しかし、朝になると気分が悪くなり、家を出る時間になるころから動悸がしたり吐き気がしたりして、どうしても家から出れなくなり会社を休んでいる」ということで来院されました。

気分も憂うつで、不安も増して、夜も眠れないといいます。気が強くて⾃信過剰の⾯と、⾮常に⼩⼼な⾯が同居しているように見えました。外⾯(そとずら)がいいので⼈間関係は悪くないらしいです。

患者さんの問題や環境はさておき、夜もぐっすり眠れていなければ翌⽇に疲れを残し、体調も気分も優れないだろうということで、まずは多少の安定剤を処⽅しました。

初期の段階だったので、症状はいったん改善しました。が、その後、彼の体調不良の訴えはエスカレートしていくことになります。

「職場復帰のハードル」を越えるのがなかなかうまくいかないのです。どうも薬だけの⼒では無理のようでしたが、すべては薬や「病気」のせいにしてしまうのでした。

でもここではっきり⾔おうと思います。

⼈間にとって、「病気」はその⼈の⼀部にしかすぎません。健康な⾯の⽅がはるかに多いはずです。ですから誰でも⾃分で治す⼒を持っているのです。医療はそれを⼿助けするにすぎません。

そして実は、「病気」と「性格」が重なり合って、症状を不安定にさせたりエスカレートさせたりするという特徴が⼼の病にはあります。

例えば、マイナス思考の⼈は、起きたことの悪い点ばかりとらえてしまうので、ますます悪くなってしまうといったようなことです。

⼼の病気は、気質や性格、そして環境ときっかけがすべてそろったときに発症します。

それは何も⼼の病に限ったことではないかもしれませんね。⾝体の病気も同じでしょう。⾷べ物や不摂⽣と、体質や遺伝的要素などすべてがそろって初めて発症するのですね。

ここがポイント!

ですからどんな病気であってもまず、⾃分を振り返ってみましょう。

薬に頼り過ぎたり専⾨家に任せ過ぎたりするのはよくないと思います。

⽣活習慣を変える。

⾃分の頭で考えたり友⼈に相談したりする。

親⼦や夫婦で向き合う。

いろんなことを総動員し、本来の⾃分が持つ⼒を信じて病と向き合いましょう。

逆説的ですが、そんな⼈にとってこそ、医療者側もまた最⼤限にその専⾨性を発揮できるのだということを知っておいてほしいと思います。