「住まい」の感覚

生まれた家は一軒屋だったが、田舎のちいさな家だった。

大学で下宿をし、結婚してもずっと狭いアパート暮らしが続いた。

アパートは「マンション」に変わったが、たかだか60平方メートル。

結婚して信州にくるまで「半径2メートル女」と自称していた。

狭いアパートでは、半径2メートルですべてことたりる。

私はナマケモノなので、それがすごく快適だった。

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今回、家を建てるときも、当然のようにそれを望んだ。

つまり「一階だけで暮らせる家」だ。

ところが設計図もできあがり土地に杭をうっていたある日。

ある建築家の記事を読んで、こころが突然変化した。

「80才、90才になっても二階にあがれる能力が必要だ。

若いときから二階に用事があるように建てて、階段の上下をしたほうが良い」

私はなぜかその建築家の話に納得した。翌日にはまったく別の設計図を作ってもらった。

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寝室と自室が二階にあるせいで、毎日20回、30回は往復する。

今回、暖房をやめてみて気づいたのだが。

わたしは家にいてつろいでいる時間がない。

家にいるときは、働いているとき。

キッチンであれやこれや作っている時間が一番長い。

そのあとも家の中をかけ足で走りまわっている。

そうそう、テレビなど何十年もゆっくり見たことがない。

ほっとするのは、食事と風呂と寝るときだけ。

だから寒くないのだ。

家は今日は14度までさがった。外は零下だ。

暖房をしている毎年の冬「寒い!寒い!」が口癖の私だったのに。

暖房をしていても、寒いと思えば寒く、すごく不満だったのに。

だけど、暖房をあきらめてちょっと厚着をして動いていればぜんぜん寒くない。

この家は実際の温度と別に空気感がやわらかい。やさしくやわらかい空気なのだ。

今は実験中。

いろんな感覚を楽しむことが好き。

私は仕事柄、いろんな性格のいろんな状況の方と共感できる能力がいる。

だから、いろんな環境に自分をおいて、実験とか体験をすることも大事。

ちょっと寒くなってきた。

ふだんなら夜はプールに行くので、あついくらい。

今日は用事があって家にいるので、そろそろ風呂に入らないと寒い。

ちょっと寒い。