人生は短い? ピアニストをめざして。

若いころは、なんせ経験がないから年長者の言うことがすべてだった。

「人生は短い」なんて言うから、そんなもんだと思って。

あわてて結婚し、いそいで子供を産み、あくせくと子育てをした。

終わってみると、その後の人生の長いこと、長いこと。

子育ての期間より、子供が成人してからの期間のほうがすでに

長くなってしまった。

「こんなはずじゃなかった」とはまさにこのことだ。

もし、中断されることさえなければ、これからがまた長い。

80歳、90歳でお元気な患者さんと接すると、これからまだ20年30年、

あるんだと実感させられる。

となると、まあ中断したらしたとして、あと30年あると考えた上で

人生設計を立てておいたほうが良さそうだ。

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私がピアニストになりたい、などというと10人が10人、ほほ笑む。

本気にしていないことがわかる微笑みだ。

でも、あと30年あるとしたら、最後の10年に年寄り専用のデイケアに

通って赤ちゃん扱いされるより、ピアニストになっていたほうが、

よほどカッコいいことはたしかだ。

わたし自身は、まったくの本気である。

誰も信じてはいないようだが、本人が本気なんだからそれでいい。

ピアニストを目ざす子供は、子供だっていろんな遊びを我慢するらしい。

友人と遊ぶ暇にレッスンするらしい。

わたしがこの年齢で、ピアニストになろうというからには、

いろんなことを制限し、からだも鍛えておかないといけない。

仕事をやめるわけにはいかない状況なので、きびしい状況だ。

変人だと思われるだろうね。

つきあいが悪いと思う人も出てくるだろうね。

失礼なことがあったらごめんね。でもつきあいも雑事も

わたしにとってはどうでもいいの。許してね。

でもね。今そうしなかったら。

80歳になったとき、20年前のあの時、どうして決心していなかったかと

後悔するに決まっている。

20年だよ。

20年も、毎日毎日、ただただ雑用を作って日を送るのはもったいないよ。

そんなわけでピアノを再開して半年がたったが、今回の再開だけは

なぜか飽きることがまったくなくて、続いているし楽しいよ。

出会いって不思議。

今の先生に出会った、というそれだけで、人生が変わってしまったのだから。

65歳でフルートを始めた友人の男性は、毎日朝夕2時間のレッスンを欠かさず

数年以上たったという。

無職の方でも毎日2時間のレッスンを続けるのは並大抵ではなかろう。

60歳でも70歳でも、新しい何かに挑戦して挑戦し続けられるなら

多分それだけでしあわせね。