診療所にて

今日は村の診療所での仕事でした。

とても温かく、そしてひなびた小さな診療所です。

私はここで仕事をする日が一番好きです。

スタッフとも、患者さんとも、かなり本音で向き合える場所です。

☆    ☆   ☆

ある患者さんに小冊子を見せて「もうじき本になるのよ」と言いました。

彼女はびっくりしながら小冊子を見ていました。

「本当に先生が撮った写真? 先生っていつもチャカチャカと動いているし、豪放磊落に

見えるけどこの写真、全然わたしたちが見てる先生と違いますね」と言うのです。

「この写真の目線、好き。見ていてほっとする。先生ってこんなに優しい面があるのね」と

言います。

わたしは「そうなの。すごく神経質なの」

スタッフも「そうそう。まわり中の人にいつも気を使っている」

私「これ、欠点なの。余計なことまで気を使うの。困っているの。震災のあと特に、疲れるの」

そんなこんなをぶちまけることもできる雰囲気なんです。

☆    ☆   ☆

そうこうしているうちに、同僚の女性医師が往診から帰ってきました。福島の、海から100キロの

ところに親と姉妹が住んでいて、半被災状態なのです。最初はパニックっておられたけど、

今はどんと構えています。

「原発のことで疲れてしまうんです。だんだん状況が悪くなる気がして」と話しかけました。

彼女は原発の近くで生まれ育っただけあって、たくさん勉強をしていました。

「最初から反対だったの。いつかはこんなことになるだろうと思っていた。こんな負の

遺産を子孫に残すことはゼッタイ出来ない。それくらいだったら今の快適生活は手放しても

いいと思っているの。

だからいずれ反対運動をするために帰ると思う。家をこちらに建ててるから、ときどき帰って、

反対運動だけはするわ」と話してくれました。

私は「原発のことなんか、今まで考えたこともなかったの。だからこの事態を受けとめがたくて

苦しいの」と打ち明けました。「大丈夫よ、一緒に考えていきましょう」と言ってくれました。

とても落ち着いて話してくれたので、私もなんだかたのもしく、うれしかったです。

20才も年下の先生です。

いつもは私のほうが偉そうにしていますが、でも今日は彼女のほうが20才くらい

年上に見えました。

看護師さんもとても優しいです。

看護師さんたちはたまに来る私の存在が刺激になるようで、私は看護師さんや、

ここの医師の優しさや率直さにいつも痛んだこころを治してもらうのです。

この診療所がとても好きです。

大切な職場のひとつです。