運命のいたずら?

運転免許の更新に塩尻まで出かけた。

せっかく40分もかけて走ってきたからと思い、街を歩いてみた。

塩尻に来ることはまずない。でも思い出が少しある。

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12年も前のこと。当時、大阪に住んでいた。

あるサイトで知り合った塩尻の男性とメールでつきあっていた。

私が出不精だというと、その人は「塩尻まで来させて見せる」と意気込んだ。

その一言で私は彼をふった。

強制されることが、人一倍きらいな私なのだから。

塩尻なんて、どこ? まわり中、山に囲まれた田舎町?

何で私がそんな田舎町に行かなきゃいけないの。いやだ、行くもんか。

そう思ったことを覚えている。

そのあと、今の夫と知り合って、結婚した。

塩尻なんか比べものにならないくらい、もっともっとド・ド・ド田舎の、年よりばかりが多い、

コンビニもない田圃と山にばかりに囲まれた人口3000人のちいさな村だった。

大阪の友たちが、「なんでまた? うっそでしょう?」と信じてくれないくらいの田舎だった。

大阪と山梨を電車で週一で通った。夫は毎週名古屋の手前まで迎えに来てくれた。

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夫のハイな気分が少しさめてきたころ、突然言われた。

「塩尻まで来てくれると助かるんだけど・・・・・・・」

私はわが耳を疑った。なんで塩尻なの?

関東圏の山梨が日本のど真ん中に位置する塩尻とかいう町と、なんか関係ある?

それがあったのだ。

大阪からは山脈が邪魔になって、ぐるーっとまわりこまないと東京方面には来れないのだ。

私は毎週金曜日夜11時半、塩尻の駅に降りたつこととなった。

「塩尻に来させてみせる!」といったその前の彼の言葉が的中したのだ。

ぜったい来たくなかった町に。それも毎週、苦労して。

「偉そうなこと考えてるから罰があたったんだよ」と夫から笑われた。

自分でも可笑しすぎた。

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免許更新で塩尻の町を走りながら、その人もこの町に住んでるんだなあと思った。

大学に勤めていると言っていた。

小学校4年の男の子と暮らしていると言っていた。

指で数えた。もう成人して、大学を卒業するころかしら。

塩尻にうらみがあるわけじゃない。

でも中学校の教科書に出てきた塩尻市はとうてい魅力的と思えなかった。

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街を歩くと、友達が教えてくれたうなぎ屋さんがあった。

鯉の炊いたのを売っているおかず屋さんがあった。鯉を買った。

入りやすそうなレストランもあった。

青果店でりんごを買った。

好きな映画を上映している映画館も、この街だ。

どこに住んでも似たり寄ったり。歩ける範囲なんてどうせ限られている。

ぜったい来たくなかった街、塩尻を歩いて、買い物して食べている自分がいる。